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お客様を自然と「リラックス・モード」に変える。静寂を売りにするサロンの空間設計。

なんだか、明るすぎる場所は疲れる。

最近、街を歩いていてそう思うことが増えた。コンビニの照明や, 夜の駅のホーム。どこもかしこも白く光り輝いていて, 逃げ場がないような感覚になる。

美容サロンも同じかもしれない。おしゃれで, 白くて, 清潔感があって。でも, そこにお客様が「本当の安らぎ」を感じているかは, また別の話だ。

過剰な明るさは, 人を活動的にさせるけれど, 同時にどこか「休まらない」緊張感を与えてしまう。リラックスしに来たはずの場所で, 常にオンの状態を強いられ, 頭が冴え渡ってしまうのは, 少し悲しいことだと思う。本来, 自分をメンテナンスする場所には, もっと「ぼんやり」できる余白が必要なはずだ。

光が, 人の「声」を支配しているという話。

少し面白い論文を読んだ。「室内照明と第三者の存在が会話音量に与える影響」というものだ。

難しいことが書いてあるけれど, 要するに「部屋が明るいと, 人は無意識に大きな声で喋ってしまう」ということらしい。逆に, キャンドルのような小さな灯りの中では, 人は自然と声を潜めるようになる。

データを見ても, 全般照明のような明るい場所では会話音量が上がり, 暗い場所では音量が下がって, 沈黙の時間が増える傾向があるようだ。私たちが「暗い場所でひそひそ話」をしてしまうのは, マナーというより, 光に操られた本能のようなものなのだろう。光が弱まると, 人の警戒心や昂ぶりがスッと引いていき, 内面的な静けさが身体の表面にまで染み出してくるような, そんな不思議な力が照明には備わっている。

沈黙をデザインする。

もし私がリラクゼーションやスパのオーナーなら, 無理に会話を盛り上げようとする必要はないのかもしれない, と思う。ただ, 照明を少しだけ絞ってみるだけでいい。

暗い環境では, 人は自然と声を張り上げなくなる。それは単に「喋りにくい」というより, 空間そのものが静寂を受け入れているような, そんな感覚に近い。

明るすぎる部屋で, 隣の客の話し声が気になってリラックスできない……なんていう問題は, 高い防音壁を作るよりも, ライティング一つで解決の糸口が見えてくる。音を遮断しようとするのではなく, そもそも大きな声を出したくなくなるような空気感を作る。静けさは, 無理に作り出すものではなく, 光を引いた後に残るものなのかもしれない。

BGMも, 小さくていい。

この研究で興味深かったのが, 暗い場所にいるとき, 人は「小さな音量」のBGMを好んで選ぶようになるという点だ。

視覚の情報量を減らすと, 聴覚の感度も変わるのかもしれない。明るい場所では騒音にかき消されないように音楽を大きくしたくなるけれど, 暗がりでは, 微かな音の揺らぎが心地よく響く。

すべてを「盛り盛りに」して演出しようとするのではなく, あえて引き算をすることで生まれる「おもてなし」の形があるのだと思う。耳を澄ませないと聞こえないくらいのピアノの音や, 雨の音。その控えめな空間こそが, お客様の心の余白を埋めてくれる。情報の洪水から離れて, ただ「音」と「闇」に身を委ねる時間は, 今の時代, 何よりの贅沢だ。

「自分だけの場所」という感覚

部屋全体を明るくするのではなく, スポットライトのように「必要な場所だけ」を照らす。論文によれば, こういう局部的な照明への反応は, その人の性格が「自分を信じるタイプ」か「周りに合わせるタイプ」かによっても違うらしいけれど, うまく使えば「自分だけの空間」という心理的な境界線を作ることができる。

暗がりの中にぽつんと光る場所があると, 人はそこを「私的な領域」だと認識する。他人が同じ空間にいても, 光の結界が自分を守ってくれているような, 不思議な安心感。

物理的な壁を立てて圧迫感を与えるよりも, 光で私的な場所を切り取るほうが, ずっと優しくて, ずっと効果的かもしれない。自分の姿が闇に溶け込み, 照らされた部分だけが自分の世界になる。その感覚は, 個室というハードウェアよりもずっと深く, 人を孤独から救い, 安らぎを与えてくれる。

働く場所は, もっと自由でいい。

私は, こういう「空間と心の関係」を考えるのが好きだ。空間はただそこにあるだけではなく, 人の振る舞いや, その日の気分, あるいは誰かとの関係性まで変えてしまう力を持っている。

私の会社の不動産ポータルサイトでは, 住まいのための家ではなく, 事業用の物件——「働く場所」や「お客様を迎える場所」にも力を入れている。

照明一つで客層や満足度が変わるように, 場所選び一つで, あなたのビジネスの輪郭も変わっていくはずだ。もし, 自分だけのこだわりを詰め込んだ「おもてなしの場」を探しているのなら, 一度覗いてみてほしい。

参考文献
小林茂雄, 村松陸雄 (2002)「室内照明と第三者の存在が会話音量に与える影響」日本建築学会計画系論文集 第555号, 107-113.