サロンの内装で失敗しない「伝え方」の教科書。134の事例から導き出された科学的な空間作り。の画像

サロンの内装で失敗しない「伝え方」の教科書。134の事例から導き出された科学的な空間作り。

センスという言葉の不自由さ

美容サロンを開業しようとするとき、だいたいの人は「おしゃれな感じにしたい」と言う。でも、この「おしゃれ」という言葉が、実は一番の曲者なのだと思う。人によってその中身は驚くほどバラバラで、ある人はコンクリート打ちっぱなしの冷たさを指し、ある人はドライフラワーが飾られた温かさを指して、同じ「おしゃれ」というラベルを貼ってしまう。

私が最近読んだ論文(今西・堀越, 2025)を眺めていると、デザイナーと施主の間で起こる悲劇の正体が見えてくる。そこには、インテリアを説明する具体的な言葉と、いわゆるスタイル名との間にある複雑な構造が示されていた。結局、双方が「センス」という曖昧で、かつ非常に主観的な言葉に逃げてしまっているから、イメージのズレは必然なのだ。

「いい感じにお願いします」というオーダーは、一見自由なようでいて、実は思考の放棄に近い。そして、出来上がってきたパースを見て「なんか違う」と頭を抱えることになる。そのコストと時間は、誰にとっても幸福ではない。センスという霧に包まれたブラックボックスを、一度科学の言葉で解体してやる必要がある。そうしないと、いつまでも自分の理想は、他人の頭の中にある理想とぶつかり続けるだけだ。

迷子にならないための「7つの地図」

内装をゼロから考えるのは、地図を持たずに森を歩くようなものだ。この論文では、134もの実例を分析して、大きく7つの「大分類」に整理している。「モダン系」「融合系」「和ナチュラル系」「自然系」「クラシック系」「エスニック系」「和系」。自分がどのあたりの場所に立ちたいのか、この地図を知っておくだけで、無駄な迷走はかなり減るはずだ。

面白いのは、これらの分類が「都会的か、エスニックか」「カジュアル・機能的か、装飾的・伝統的か」といった、数学的な軸(数量化III類)によって整理されている点だ。もしあなたが「上品で豪華な感じ」を目指すなら、それは「クラシック系」の領土にいる。そこでは「装飾的」「エレガント」といった要素が必須パーツになる。逆に、そこへ「機能的」という別の軸のパーツを無理に持ち込むと、空間のバランスは一気に崩れてしまう。自分が今、どのカテゴリーの領土で勝負しようとしているのか。それを自覚するだけで、内装のチグハグ感は劇的に抑えられる。

具体的なスタイルの解剖図

インテリアスタイルというのは、突き詰めれば「要素の組み合わせ」に過ぎない。論文のデータに基づき、いくつかの代表的なグループを解剖してみると、その中身がよくわかる。

  • 「モダン系」の正体:構成するのは「都会的」「直線的」「機能的」といった要素。クールで仕事ができそうなエステサロンを作りたいなら、この領土に足を踏み入れることになる。
  • 「和ナチュラル系」の心地よさ:構成要素は「自然素材」「温かみ」「健康的」。リラクゼーションなど、お客様に「脱力」してほしい場所には、この系統の語句を選ぶと事故が起きにくい。
  • 「クラシック系」という重力:キーワードは「エレガント」「豪華」「装飾的」。このスタイルは「カジュアル」の対極にあるため、安価な家具を混ぜると途端に偽物感が出てしまう。
  • 「エスニック系」の非日常:キーワードは「エキゾチック」「のどか」「手作り感」。洗練されすぎてはいけない。どこか土の匂いが感じられる素材が、このスタイルを成立させる条件になる。

「シンプル」という言葉の罠

みんな「シンプルがいい」と口を揃える。過剰な装飾を嫌い、引き算の美学を求めるのは今の時代の気分なのだろう。でも、この論文の分析によれば、「シンプル」という言葉は、実は一番扱いが難しい。

統計的に見ると、「ナチュラル(約30%)」に次いで多く使われる「シンプル(約23%)」という言葉は、実は特定のスタイルに特化しているわけではない。都会的なシンプルもあれば、機能的なシンプルもある。あるいは、和ナチュラルの中に含まれるシンプルさもある。

この「シンプル」を混同して業者に伝えてしまうと、ミニマルなエステサロンを作りたいはずが、なぜか温かみのある北欧風の棚が届いて、空間全体のトーンが狂い始める。自分が求めているのは、冬の朝のような冷たい「都会的」なシンプルなのか、あるいは使い込まれた道具のような「機能的」なシンプルなのか。その「中身」を丁寧に切り分けるだけで、内装の解像度は驚くほどクリアになる。

28の要素でイメージを固定する

論文では、既存のインテリア実例から28の「説明要素」を抽出している。例えば「自然素材」「温かみ」「のどか」「直線的」といった言葉たち。これらは単なるふわふわした形容詞ではなく、インテリアを構成するための設計図のパーツのようなものだ。

内装業者と打ち合わせをするときは、「北欧風」といったスタイル名(スタイル語)で伝えるのを、意識的に一度やめてみてほしい。代わりに、この論文が示すような具体的な「説明要素」を3つほど選んで、組み合わせて伝えてみる。

「自然素材」をベースにして、「直線的」な家具を置き、全体として「開放的」な空間にしたい、という風に。言葉を積み上げていく作業は少し面倒かもしれないけれど、そうやって自分の内側にあるイメージを定義していくことで、ようやく「センス」という他人に伝わらない領域から抜け出すことができる。共通の言語を持つことが、デザイナーという他者と対等に渡り合うための、唯一の武器になるのだと思う。

流行というノイズを削ぎ落とす

インテリアの世界にも流行がある。でも、流行のスタイルをそのままなぞることは、自分ではなく「時代の気分」をなぞっているだけだ。それは、長期的に見れば自分のサロンのアイデンティティを薄めてしまうことにもなりかねない。

この論文が面白いのは、インテリアを「都会的かエスニックか」といった根源的な軸で整理している点だ。流行のキーワードというノイズを一度ミュートして、論文が示すような普遍的な要素を眺めてみると、自分が本当に作りたかった空間の輪郭が浮かび上がってくる。

例えば「エレガント」(出現率約15%)という要素に惹かれるのか、それとも「健康的」「洗練」に惹かれるのか。誰かの真似ではなく、自分の確信に基づいた構成要素を組み合わせていく。それが、長く愛されるサロンを作るための、一番静かで確実な方法なのだと思う。

働く場所を、おもてなしの舞台にする
内装のイメージが固まったら、次はそれを置くための「器」が必要になる。ただ、あなたが探しているのは「住まい」ではなく「働く場所」であり、お客様を「おもてなしする舞台」だ。

私がいる不動産ポータルサイトでは、そうした「事業用物件」を専門に扱っている。住むための場所ではなく、商売という表現をするための空間。住宅用のサイトでは見えてこない、商売を成立させるための機能と、理想のスタイルを両立できる場所を、ぜひ探してみてほしい。

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参考文献
今西貴美, 堀越哲美 (2025)「住宅のインテリアスタイルを特徴づける説明要素の抽出とスタイル語との関係 ―デザイナーとクライアントの共通理解手法を求めて―」『人間と生活環境』32(1), 11-22.