
【集客の科学】近くに強力なライバル店が……。「立地の不利」を引っくり返すために必要な「サロンの魅力」の作り方

立地がすべてだと思っていたけれど
美容室やエステサロンを開業しようとするとき、私たちはまず「立地」の良し悪しに執着する。駅からの距離、人通りの多さ、あるいは角地で目立つかどうか。確かに、条件の良い場所を確保できれば、それだけで勝負の半分が決まったような万能感に包まれるし、逆に近隣に評価の高い有名店があったりすると、戦う前から敗北感に打ちのめされたりする。
でも、最近ある論文を読んでいて、そんなに短絡的に絶望することもないのかもしれないなと思った。慶應義塾大学の栗田治教授が書いた、立地競争に関する数理モデルの論文だ。そこには、私たちがなんとなく感じている「場所の有利・不利」が、数式でシビアに、それでいて少し希望の持てる形で示されている。結局のところ、立地というのは一度決めたら終わりの「動かない条件」ではなく、競合との力関係や、私たちの「振る舞い」によって、お客さんの目にはいくらでも形を変えて映るものなのだ。
脳内にある「天秤」の仕組み
この論文のベースになっているのは「ハフ・モデル」という考え方だ。ざっくり言うと、人がどの店に行くかを選ぶとき、頭の中で「店の魅力」と「そこに行くまでの面倒くささ」を天秤にかけている、という話。
当たり前じゃないか、と思うかもしれないけれど、これが数式になると面白い。「集客力(選択確率) = 店舗の魅力 ÷ 移動の負担」というような形になる。
この式の残酷で、かつ救いがあるところは、分母(移動の負担)が大きくても、分子(魅力)をそれ以上に大きくしてしまえば、天秤は自分の店の方に傾くという点だ。
例えば、駅前の便利な場所にある「普通の美容室」と、駅から徒歩20分かかるけれど「自分の髪質を世界一理解してくれる美容室」があったとする。論文のモデルが示唆しているのは、後者の「魅力」の数値が一定ラインを超えた瞬間、お客さんにとって「20分歩く」という物理的な負担は、選択を邪魔する要因ではなくなる、ということだ。「近くに大手があるから客を取られる」というのは、実は距離の問題だけではなくて、相手の「魅力」に対して、自分の店の「魅力」の設計が追いついていないだけ、という捉え方もできる。
魅力の正体を履き違えない
論文の中では、店舗の魅力を主に「店舗の規模(S)」として扱っている。一般的には面積などがイメージされるけれど、これをそのまま小さな個人サロンに当てはめて、資本力がないことを嘆く必要はないと思う。
大きな店が、広いフロアや豪華な設備という「規模」で魅力を稼ぐなら、私たちはもっと別の、尖った「期待値」で勝負すればいい。「誰にでも合うサロン」を目指すと、結局は物理的な規模が大きな店に市場を奪われてしまう。けれど、「40代の白髪悩みに特化している」とか「完全個室のプライベート空間」というふうに、ターゲットをあえて狭く絞り込めば、その特定の人たちにとっての「魅力(分子)」は、大手のそれを一気にごぼう抜きにして跳ね上がる。
論文内のシミュレーションでも、2つの店舗の魅力や交通環境の条件によって、互いに離れて立地する「棲み分け」の状態が生まれることが示されている。独自の尖った魅力を磨くことは、数学的にも、競合と同じ土俵に立たずに生き残るための「正しい戦略」なのだ。
SNSが「距離」という壁を壊した
昔だったら、立地の悪さは致命傷だった。看板が見えない店には誰も辿り着けないし、存在しないのと同じだったから。でも、今はSNSがある。
この論文では、交通のスピードが上がったり、移動の障壁が低くなったりすると、人は多少遠くても「一番魅力的な店」に集まるようになる(一極集中)という現象についても触れている。現代において「移動の障壁を下げるもの」は、車や電車だけじゃない。インスタやYouTubeで「そこに行く価値」を事前に確信させることも、実質的には心理的な距離を縮めているのと同じだ。
スマホで仕上がりを動画で確認して、「ここだ!」と確信した瞬間、お客さんの頭の中では「行くまでの面倒くささ」という重りが、ふっと軽くなる。物理的な立地というハンデを、デジタルな発信力という「魅力」で上書きできる時代に、私たちは生きている。
どこで「働く」か、どこで「もてなす」か
自分のサロンの「魅力」を最大化できる場所は、必ずしも駅前の一等地とは限らない。
私の働く会社では、そんな「働く場所」「もてなす場所」を専門に扱うサイトを運営している。
もし、これから自分の城を構えようとしているなら、一度覗いてみてほしい。君の「魅力」を載せるための、ちょうどいい器が見つかるかもしれない。