
「お客様は神様」がスタッフを壊す?無理な接客をなくし、理想のファンに囲まれるための「箱」の戦略
サービス業における「感情の三角形」
最近、街を歩いていると、新しい美容サロンやリラクゼーション店があちこちにできている。みんな、自分の城を持って、理想の空間でこだわりの技術をふるいたいと思って開業するんだろう。それはとても尊いことだと思うけれど、現実はもう少し泥臭いというか、システム的な問題に直面することが多いみたいだ。
特に人間関係。スタッフが定着しないとか、一部のお客さんの対応で心が折れそうになるとか。そういうとき、たいていの人は「自分の接客が足りないのかな」とか「スタッフのやる気がないのかな」と、精神論で解決しようとする。でも、それって実は個人の資質の問題じゃなくて、もっと手前の、商売の「構造」にバグがあることが多いんだよね。
社会学の論文(鈴木、2010)を読んでいたら、接客労働には「管理者ー労働者ー顧客」という3つのプレイヤーによる三角関係がある、という話が出てきた。この視点を持つだけで、サロン経営のモヤモヤの正体が、驚くほどクリアに見えてくる。
「二正面作戦」を強いられるスタッフの疲弊
普通の工場やオフィスワークなら、基本的には上司(管理者)の言うことを聞いて、目の前のモノや書類を処理していればいい。でも、サロンの現場に立つスタッフはそうはいかない。彼らには、給料を払ってくれる「オーナー」というボスと、目の前に座っている「お客さん」という、事実上のもう一人のボスが同時に存在している。
論文によれば、スタッフはこの2人から同時に「評価」され「統制」されている。オーナーからはマニュアルや効率を求められ、お客さんからは「自分だけを特別扱いしてほしい」という無言のプレッシャーを受ける。この2人のボスの要求が食い違ったとき、スタッフは板挟みになって、精神をすり減らすことになるんだ。
オーナーが「お客様は神様だから」という言葉を安易に使うのは、実はとても危険なことだと思う。それは、スタッフに対して「2人目のボス(客)の理不尽な統制を、すべて一人で受け止めろ」と言っているのと同じだから。スタッフが孤立してしまわないように、オーナーはまず、この「三角関係」の構造を理解して、スタッフがどちらを優先すべきか明確な指針を出してあげる必要がある。
マクドナルドの「客のルーティン化」という発明
「お客さんをコントロールする」なんて言うと、なんだか傲慢で冷たい感じがするかもしれない。でも、私たちが普段「便利だな、楽だな」と感じているサービスの多くは、実はその高度な「コントロール」の上に成り立っていたりする。
例えばマクドナルド。あそこに行くと、私たちは当たり前のように列に並び、カウンターで注文し、自分で商品を運び、食べ終わったらトレイを片付ける。これを私たちは「マナー」だと思っているけれど、実はマクドナルドという企業が長い年月をかけて作り上げた「客を動かす仕組み」だ。論文ではこれを「顧客のルーティン化」と呼んでいる。
マクドナルドのお客さんは、すでにその「ルーティン」に自分を合わせているから、スタッフがいちいち指示しなくても店が回る。これがうまく機能している場所では、不思議とオーナー(管理者)とスタッフ(労働者)の仲も良くなるらしい。「厄介な客」を仕組みが排除してくれるから、スタッフは余計な神経を使わず、本来の仕事に集中できるからだ。サロン経営でも、予約のルールやカウンセリングの流れを「仕組み」として定着させることは、結局のところ店内の平和を守ることにつながるんだよね。
怒りの矛先はどこに向かうのか
オープンしたての頃は、とにかく1人でも多くのお客さんに来てほしいから、つい無理をしてしまいがちだ。でも、オーナーが無理な予約を詰め込んだり、スタッフに過度な接客を強いたりすると、思わぬ副作用が生まれる。
論文には「対立の転移(代替効果)」という面白い概念が出てくる。オーナーから無理を言われて溜まったスタッフのストレスが、直接オーナーに向かうのではなく、目の前の「少しわがままな客」への冷淡な態度として爆発してしまう、という現象だ。
つまり、スタッフの接客態度が悪いのは、その人の性格の問題ではなく、オーナーの管理に対する不満が、一番弱い立場である「客」へと流れてしまった結果かもしれない、ということ。これを防ぐには、精神論で叱るよりも先に、スタッフが客と「敵対」せずに済むような、余裕のあるオペレーションを組むことの方がずっと大事なんだと思う。
「お互いに選ぶ」という、誠実な関係性
結局のところ、自分たちに合ったお客さんに来てもらうための仕組み作りは、冷酷な選別ではなく、長く機嫌よくお店を続けていくための「誠実さ」なんだ。
最初から「私たちのサロンは、こういう価値観を大切にしています」という意思表示を、予約システムや案内の端々に組み込んでおく。それは、お客さんを拒絶することじゃなくて、お互いにとって不幸な出会いを未然に防ぐための知恵なんだよね。無理な要求をする客に振り回されず、スタッフが誇りを持って働ける場所。そんな空間を作ることが、経営者の本当の仕事なんじゃないかな、と思う。
結局、すべては「箱」から始まる
客をコントロールし、スタッフが働きやすい環境を作る。そのために一番大事なのは、実は「どこで商売をするか」という物理的な条件だったりする。
動線が確保しやすい間取り、ターゲットとなる「質のいい客」が歩いているエリア、スタッフが息を抜けるバックヤード. これらが揃っていないと、どんなに理論を詰め込んでも無理が来る。
私は今、不動産会社で事業用物件、特にサロン向けの物件を専門に扱っている。
もし、これから自分の城を築こうとしているなら、まずは「戦いやすい戦場(物件)」を選ぶところから始めてほしい。変な客に振り回されず、スタッフと笑って働ける場所。そんな物件を、私たちのポータルサイトで探してみて。
理想のサロン運営は、理想の場所選びから。
スタッフを守り、良いお客さんに恵まれるための「第一歩」をお手伝いします。
鈴木和雄(2010)「接客労働の3極関係」『経済理論』第47巻第3号。