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「安いから」という理由で来る客は、最初からいなかったのと同じかもしれない


あるヘアサロンの2年分の顧客データを分析した論文を読んで、少し考えさせられた。
そのデータによると、特定のキャンペーンや他社のクーポンを使ってやってきた客の多くは、驚くほどあっさりと店から消えていくらしい。

1. データが語る「いなくなる客」の共通点

私たちは「新規客」という言葉をひとまとめに使いがちだけれど、データの上では、安さを求めてやってくる客と定着する客は、最初から全く別の生き物として描かれている。

クーポンで来た客の多くは完全離反、つまり二度と現れないという分類に吸い込まれていく。それは個人のスキルの問題というより、そういう仕組みなのだ、ということが数字の羅列から伝わってくる。

2. 「指名なし」という頼りなさ

もう一つ、論文が示していた興味深い事実は指名の有無だ。
初回来店時に特定のスタッフを指名しない客は、その後の定着率が著しく低い。

当たり前といえば当たり前なのだけれど、指名がないということは、その客にとってその店は「どこでもいい場所」でしかないのだろう。コンビニで店員が誰であるかを気にしないのと同じだ。

でも、ヘアサロンのような場所で、コンビニと同じような匿名的な消費を許してしまうと、結局は価格競争という不毛な消耗戦に巻き込まれていくことになる。

3. 「時間単価」というシビアな視点

この論文ではHourly(時間単価)という指標も提案されている。ただ売上が高いかどうかではなく、1時間あたりにいくら稼いだか、という視点。

例えば、クーポンで呼んだ客に長時間の施術をして、それなりの金額を支払ってもらったとしても、時間単価で計算すると実は経営を圧迫している、ということが起こりうる。

安売りで時間を埋めることは、一見すると店が賑わっているような錯覚を生むけれど、実際には将来に残らない仕事にスタッフの体力を切り売りしているだけなのかもしれない、と感じる。

4. 継続を前提とした「階段」を作る

では、どうすればいいのか。
論文の最後の方では、初回来店時の大幅な割引よりも、二回目、三回目と通うごとに特典がアップしていくような、継続を前提とした仕組みが提案されていた。

結局、人は「安さ」で動いているときは、店との繋がりを持っていない。二度、三度と通ううちに、ようやく店や人との関係性が、価格という数字を上回り始める。

そこまで辿り着けない客をいくら呼んでも、それはバケツの底に穴が空いているようなもので、徒労感だけが溜まっていく。

5. 結局、何にリソースを割くべきか

私たちが本当に向き合うべきなのは、広告費を投じて新しい客を連れてくることではなく、いま目の前にいる客に、どうやって指名という旗を立ててもらうか、ということなのだろうと思う。

データが証明しているのは、安さで呼ぶ戦略の限界だ。効率を求めるなら、むしろ最初から安売りをせず、一度気に入れば長く通ってくれる層を丁寧に育てる方が、よほど真っ当な経営と言える。

「次はあなたにお願いしたい」という言葉をどれだけ積み上げられるか。2年間の膨大なデータが最終的にたどり着いた結論は、そんな、あまりにもシンプルで、言い古された真理だった。


納得のいく「拠点」から、ビジネスの指名を勝ち取る。

こうした「データに基づいた確かな戦略」は、サービスの内容だけでなく、そのサービスを提供する場所選びから始まっているのだと思う。

どれほど良い技術や志を持っていても、選んだ物件がターゲットとする顧客層と乖離(かいり)していれば、また不毛な集客レースに逆戻りしてしまう。

僕が所属している事業用物件のポータルサイトでは、単なる「箱」ではなく、プロフェッショナルが働く場所、そしてお客様をおもてなしする場所を提案している。

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参考文献:
今田一希・船山貴光・山田実俊・山本義郎「Shiny アプリケーションを用いたインタラクティブな顧客情報の分析と可視化」計算機統計学 第33巻・第1号 (2020)