
安売りは破滅への道。これから美容サロンを開業する人が知るべき「正しいメニュー価格」の話
安易な価格設定がもたらす罠
なんとなく周りのサロンの相場を調べて、それより少し安いくらいの価格に決めてしまう。新しくお店を開こうと考えている時、多くの人がごく自然にやってしまいがちなことだと思う。周りが1万円でやっているなら、うちは認知度もないし9000円くらいにしておこうか、とか。その方が確実にお客さんが来てくれそうな気がするし、安心できるからだ。
でも、結論から言うと、そうやって深く考えずに始める安易な安売りは、だいたい破滅への道につながっている。
今の時代、「安ければ人が来る」という単純な仕組みでは、個人や小さなサロンが生き残ることは難しい。安さの勝負になれば、最終的には資本力があって広告費を湯水のように使える大手に勝てるわけがないからだ。マーケティングという少し硬い視点から見ても、価格設定のさじ加減一つで、その後サロンに集まるお客さんの質も、自分の日々の労働環境も、そして何より自分自身の生活のゆとりや精神状態も、すべてが変わってしまう。
価格を決めるということは、単にメニュー表に数字を書き込む作業ではない。自分がこれからどういう風に生きていくかを決める、とても重い選択なのだと思う。今回は、これからの時代に新しくサロンを始める人が、最初に知っておくべきメニュー価格の決め方やその裏側にある仕組みについて、少し長くなるけれど、淡々と考えてみたい。
サロンの価格を決める3つのアプローチ
そもそも、世の中の「モノやサービスの値段」というのは、一体どうやって決まっているのだろう。教科書的なマーケティングの世界では、基本的には以下の3つのアプローチがあると言われている。これから店を持つなら、まずはこの基本の型を知っておいて損はない。
1つ目は「原価志向」と呼ばれるもの。サロンで言えば、カラー剤やパーマ液などの材料費、お店の家賃や光熱費、嫌でもかかってくる固定費、速度や技術を維持するための機材費、放置できない人件費などを細かく計算して、そこに「これくらいは手元に残したい」という一定の利益(利幅)を乗せていく計算方法だ。非常に手堅いし、赤字を出さないためには絶対に欠かせない視点だと言える。
2つ目は「競合志向」。検品作業のように一番イメージしやすいと思う。自分がお店を出すエリアの、似たような規模のライバル店をいくつかピックアップして、その価格帯をリサーチする。そして「あそこがこの値段なら、うちはこのくらいが妥当かな」と、周りの現行レートに合わせていくやり方だ。
3つ目は、お客さんの目線に立つ「需要志向」というアプローチ。これは、ターゲットとなるお客さんが「そのサービスに対して、一体どのくらいの金額なら支払ってもいいと思うか」という基準を、調査や感覚から導き出して決める方法だ。お客さんの頭の中にある「これくらいが相場だろう」「この悩みが消えるならこれくらい払う」という知覚価値をベースにする。
これら3つのアプローチは、どれも決して間違ってはいないし、経営の土台として知っておく必要はある。家賃が払えなくなるような価格では困るし、あまりに世間の相場から浮き上がった値段にするのも勇気がいるからだ。
だけど、これら「だけ」に頼って価格を決めてしまうと、どうしても「他店との不毛な削り合い」のループに巻き込まれやすくなる。特に、近隣のサロンの顔色を伺って右にならえをするだけの価格設定は危うい。相手がもし、大規模なチェーン店だったり、一括仕入れで材料費を極限まで抑えられる資本力のある相手だった場合、こちらが先に体力負けして、じわじわと首が絞まっていくのは目に見えているからだ。基本は抑えつつも、もう一歩進んだ視点が必要になる。
「適切な価値提案型」でファンを作る
そこで、これからの時代に新しくサロンを始める人に主流になっていくと言われているのが、「適切な価値提案型」という考え方だ。なんだか少し小難しい言葉に見えるけれど、中身はとてもシンプルで、人間らしい話だと思う。
今の世の中、すべてのお客さんが、常に「一番安いところ」だけを血眼になって探しているわけではない。人間、誰しもこだわりを持っている部分には、多少お金がかかっても良いものを手に入れたいと思うものだ。「自分にぴったりの髪型を提案してくれるなら」「長年悩んでいる肌のトラブルを本当に解決してくれる丁寧な施術をしてくれるなら」、多少高くても喜んでお金を払いたい、という人は私たちが思っている以上にたくさんいる。
たとえば旅行のことを考えてみると分かりやすい。お正月やゴールデンウィークといったハイシーズンの飛行機チケットや、SNSで話題のなかなか予約が取れない人気ホテルは、普段の定価の倍以上の値段に跳ね上がることがある。それでも、「どうしてもその時期に行きたい」「その空間を体験したい」という人は、納得してその高い金額を支払う。それだけの価値があると、お客さん自身が感じているからだ。
一方で、世の中の価値観も多様化している。すべてのものを自分で所有するのではなく、必要な時だけ賢く利用できればいいという人も増えた。だからこそ、一回でまとまった大きな金額を支払うのは躊躇するけれど、月額料金の形(サブスクリプション)で定額で通えるなら契約したい、という新しいニーズも生まれないだろう。白髪染めや前髪カット、定期的なフェイシャルケアなんかは、この形の方が通いやすいと感じる人も多いはずだ。
このように、お客さんが求めていることやライフスタイルは、本当に多岐にわたるようになっている。だからこそ、これからのサロンオーナーに求められるのは、周りの真似をすることではない。自分の技術やサロンの空間が持つ「独自の強み」をちゃんとお客さんに提示して、それにふさわしい正しい価格を自分自身で設計することだ。安さで客を釣るのではない。「この価値があるから、この価格なんです」とお客さんにちゃんと納得してもらい、お互いに幸せになれるような「適切な価値」のアプローチが、これからの厳しい時代を生き残るためには必要になってくる。
注意!安易な一律値引きがサロンを潰す理由
お店を開いてしばらく経ち、もし少し客足が鈍ってきたりすると、人は誰でも不安になる。そんな時、つい手っ取り早く売上を立てたくて、「新規限定・全メニュー50%オフ」とか「期間限定で一律30%引き」みたいなクーポンを乱発したくなってしまう。その気持ちは痛いほどよく分かるのだけれど、実はこれも、かなり危うい劇薬だ。
一律で値引きをしてしまうと、本来であれば「このサロンが好きだから、通常料金でも喜んで行くよ」と言ってくれるはずだった、一番大切にすべき優良なお客さんからも、余計に値引きをしてお金をいただくことになってしまう。これではお店全体の売上バランスが崩れる。結果として、朝から晩まで予約が詰まって自分の労働時間は増え、体はボロボロになるのに、なぜか手元に残る利益はどんどん減っていくという、悲しいパラドックスに陥ってしまう。
さらに悪いことに、そういった一律の安売りを続けていると、あなたのサロンの技術や雰囲気に惚れ込んでくれた人ではなく、単に安さだけを目当てにネットを回遊している「クーポン難民」のお客さんばかりが集まるようになる。彼らはその時だけ安く施術を受けられれば満足なので、次の月にはまた別の、新しくオープンした安いサロンのクーポンを使ってどこかへ行ってしまう。どれだけ丁寧に接客をしても、自分のファン(リピーター)にはなってくれないのだ。
値段を安易に、コロコロと下げるということは、自分がそれまで必死に磨いてきた技術や、こだわり抜いて作ったサロンのブランド価値を、自分自身のプロ意識で貶めてしまうことと同じなのだと思う。一度下げてしまった価格のイメージを、後から「やっぱり元に戻します」と言って引き上げるのは、最初に高く設定するよりも何倍も難しい。だからこそ、目先の数字欲しさに一律で安売りするのだけは、本当に慎重にならなければいけない。
まとめと、場所探しの話
あなたの技術、あなたが作る空間には、それに見合う価値がある。だから、最初から自信を持って「適切な価値」を提案してほしい。
いいメニューと、いい価格。それさえ決まればすべてうまくいくかというと、現実はたぶん、そんなに甘くない。
どれだけ素晴らしいコンセプトがあっても、それを表現するための「場所」がガタガタだと、すべてが台無しになってしまうからだ。
私の働いている不動産会社では、事業用の物件を専門に扱っている。最近は特に、美容室やエステといった「サロン向けの物件」を熱心に探して集めている。
サロンの物件探しは、普通の部屋探しとは全然違う。水道のパイプが細すぎないかとか、電気の容量は足りるかとか、そういう地味で、でも致命的なチェックポイントがたくさんある。そういう面倒な部分をあらかじめクリアした、ちゃんとした物件を私たちはストックしている。
価格設定に迷うのと同じくらい、場所選びにも正解はなくて、みんな悩む。でも、しっくりくる空間に出会えると、それだけで「この場所なら、この価格で勝負できる」という覚悟が自然と決まったりもする。
これから自分が毎日を過ごすことになるかもしれない空間を、ただぼんやりと眺めてみるだけでも、不思議と現実味が湧いてくる。もしよかったら、私たちのサイトを少し覗いてみてほしい。