
美容室の数はコンビニの4.5倍?データで知る「飽和時代」の生き残り戦略
コンビニより多い美容室で、どう生き残るかという話
最近、街を歩いていると「また美容室ができたな」と思う。昨日まで空き地だった場所に、いつの間にか全面ガラス張りの小綺麗な空間が出来上がっている。感覚的なものかと思っていたけれど、数字を見るとその感覚は正しかった。
論文のデータを紐解くと、2018年時点で日本の美容院の数は全国に約25万店に達している。一方で、私たちが「どこにでもある」と信じているコンビニは、全国に約5.5万店しかない。つまり、美容室はコンビニの4.5倍も存在していることになる。この過剰とも言える数の中で、新しく店を出そうとするのは、冷静に考えればなかなかの無理ゲーだ。
1990年からの推移を見ると、理容店(床屋)が約14万店から約12万店へと減少しているのに対し、美容室は約18.6万店から約25.1万店へと右肩上がりに増え続けている。
ここで少し不思議なことが起きている。理容と美容を合わせた市場規模は2兆円を超える巨大なものだけれど、その伸び率はわずかにマイナス傾向を示している。日本全体で美容室にお金を使う総額、つまり市場という大きな「パイ」は、少しずつしぼんでいる。それなのに、店の数だけが増え続けているのだ。
1990年には美容室1店あたり約684人の顧客候補がいた計算になるけれど、2018年にはそれが503人まで減った。昔は700人弱で一軒の店を支えていたのに、今は500人で支えなければならない。これに加えて、効率化を極めた大手チェーンがその500人を奪い合う。そんなシビアな場所が、今の美容室という戦場だ。
200m以内の「隣人」たち
美容室の競争は、理容室に比べてもずっと過酷だ。半径200mという、歩いてすぐの距離にライバルがどれだけいるかを調べてみると、その差ははっきりと数字に表れる。
半径200m以内にライバル店が一つもない「無風地帯」で営業できている理容店は約27%ある。それに対して、美容室で同じ条件を得られているのはわずか14%ほどだ。平均的な店舗数で見ても、理容店が2.1店なのに対し、美容店は3.3店と、密度が一段階高い。
つまり、美容室を開業するということは、最初から「お隣さんも、その向かいのビルもライバル」という環境に放り込まれるということだ。
経営年数のデータも面白い。理容店は営業50年以上の「老舗」が26.3%を占め、平均営業年数は33.7年に達する。一方で、美容室は10年から30年くらいの中堅店がボリュームゾーンで、平均は22.9年。新しい店が次々と現れては、古い店を押し出していく。そんな新陳代謝の激しさが、美容室の立地競争をより殺伐としたものにしている。
なぜ「国家資格」が必要なのか、という原点
そもそも、私たちはなぜ髪を切るために国家資格が必要なのか。単におしゃれにするだけなら、手先が器用な人に任せても良さそうなものだ。けれど、法によって厳しい試験をパスしなければハサミは持てない。
その理由は、歴史を遡ると「公衆衛生」という切実な問題に行き着く。
かつての日本、特に戦後の混乱期には、結核などの感染症が蔓延していた。1950年代の大阪の調査では、理容師の3.2%に結核の所見があったという記録もある。客に病気を移さない、客から病気をもらわない。理美容室は、命に関わる場所として警戒され、管理されていた。
今の国家試験でも、実技試験は「衛生上の取り扱い」と「基礎技術」の二本立てだ。用具の消毒や手指のチェックが厳しく行われるのは、私たちが「健康と安全」を売るプロだからだ。
今の時代、そんな古い歴史を開業時の集客に使う人はいないだろう。引いても、お客さんが自分の体の一部を預ける根底には、無意識の「信頼」がある。カットやカラーのセンスで差別化するのは当然として、この「安全で衛生的である」という原点にどれだけ誠実でいられるか。激戦区で長く続く店というのは、案外そういう土台がしっかりしている。
結局、どこに城を構えるか
最後に、データの面白さが一番詰まっているのが「場所」の話だ。
低価格チェーンとして知られるQBハウスのような店舗の出店状況を詳しく見ると、各都道府県の人口数と出店数が、統計的にほぼ一致していることがわかる。相関係数は0.933という極めて高い数値だ。彼らは感覚で出店場所を決めているわけではなく、非常に合理的に「人がいるところに店を出す」という作業を徹底している。
都道府県別のデータを見ると、東京都や神奈川県は美容室1店あたりの人口がトップクラスに多い。一見、チャンスが転がっているように見えるけれど、実際にはそれ以上の勢いでライバルが押し寄せ、土地代も跳ね上がる。
理容室は家族経営が4割を超え、地域に根ざして細く長く続くスタイルが主流だけれど、美容室は他人を雇い、組織として利益を出していくモデルが求められる。だからこそ、「どこで戦うか」という物理的な条件が、技術以上に経営の成否を分けてしまう。
結局、いいハサミを手に入れるのと同じくらい、いい「場所」を見つけるのは大事なことだと思う。
私のいる不動産ポータルサイトでは、最近特にサロン向けの物件に力を入れている。事業用物件を専門に扱っているから、単なる「広さ」や「家賃」だけでなく、その街の人の流れや、美容室としての使い勝手が見える物件を揃えているつもりだ。
コンビニの4倍以上のライバルがいる世界で、それでも自分の城を構えたいと思うなら、まずは戦う土俵をじっくり探してみてほしい。
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