
服はユニクロ、美容に月5万。現代の「メリハリ消費女子」を狙い撃ちするサロン開業法
街の景色と、見えなくなったお金の行き先
最近、街を歩いていると、みんな同じようなファストファッションの服を着ているように見える。ユニクロとかSHEINとか、安くてそれなりに小綺麗な服がいくらでも手に入る時代だから、服に何万円もかける人は昔に比べて減ったのかもしれない。かつてのように、必死にバイト代を貯めてハイブランドの新作バッグを買ったり、毎月雑誌を何冊も買ってトレンドの服を追いかけたりするような空気感は、今の若い人たちの間からは少し薄れてきているように感じる。見た目を着飾るための選択肢がこれだけ安価に、そして均質に手に入るようになったのだから、それはある意味でとても合理的で、自然な変化なのだろう。
でも、じゃあみんながお金を使わなくなって、物欲を失ってしまったのかというと、全然そんなことはない。お金の使い道が、外側から見えにくい場所に移動しているだけなのだと思う。目に見える派手な消費から、自分の内側や、他人の目にはすぐには分からないパーソナルな領域へと、お金の流れる川のルートが変わっただけなのだ。服にお金をかけない分、彼女たちは別の、もっと自分にとって切実な場所にしっかりとお金を流し込んでいる。その流し込み先が、今は「美容」というわけだ。
日経MJが少し前に出した美容に関するアンケート調査(2026年2月3〜5日実施)を読んでいたら、興味深いデータがあった。コロナ前に比べて美容への支出が「増えた」という人が約2割いて、彼女たちは外食や服、日々の食費にかけるお金を削って、その分をスキンケアや美容医療に回しているらしい。飲み会を1回断れば、あるいは今月買う予定だったトップスを1枚我慢すれば、ちょっといい美容液が買えるし、美容クリニックのレーザー治療が1回受けられる。そうやって、自分の生活の中で支出の優先順位をはっきりと組み替えている人たちが、私たちが思っている以上にたくさんいるのだ。
記事の中に、都内の29歳の会社員女性の話が出てくる。彼女は服はユニクロやSHEINで済ませているけれど、美容には毎月5万円以上使っているという。毎月5万円というのは、一般的な会社員の可処分所得から考えればかなりの割合だ。それでも彼女は、美容院やネイル、まつげサロン、クリニックを定期的に巡りながら、「美容は自分の気分を維持するために大事なもので欠かせない」と言っている。誰かに見せびらかすためではなく、明日も自分が心地よく、機嫌よく社会を生き抜いていくための「必要経費」として、彼女は毎月5万円を支払っている。この感覚は、現代の消費心理をとても象徴しているように思う。
これから新しく美容サロンを開業しようと考えている人は、この「服はユニクロだけど美容に月5万使う」という人たちの感覚を、よく理解しておいたほうがいい。彼女たちは決して、お金がなくて節約しているわけではない。使う場所をものすごくシビアに、そして自分の意志で厳選しているだけなのだ。ターゲット層の表面的な年収や職業だけで「これくらいの価格帯が妥当だろう」と判断してしまうと、今の時代の本当に熱量のある顧客層を見誤ってしまうことになる。
高級感よりも「自分の気分を維持できる場所」
昔の感覚だと、「客単価の高いサロンを作るなら、内装をめちゃくちゃ豪華にして、セレブ感を出さなきゃいけない」と思いがちだ。大理石調の床に、きらびやかなシャンデリアを吊るし、非日常的なお姫様気分を味わってもらうことが、高いお金を払ってもらうための条件だと信じられていた。しかし、今のメリハリ消費層が求めているのは、そういう記号化された、どこか押し付けがましい高級感ではないような気がする。他人が決めた「分かりやすいラグジュアリー」に身を置くことは、今の彼女たちにとっては少し疲れることだし、求めている癒やしとはちょっと方向性が違うのだ。
彼女たちが求めているのは、もっと切実な「自分の機嫌を自分で取るための時間」だ。日々、仕事や人間関係、あるいはSNSから流れてくる大量の情報に揉まれ、少しずつ削られていく自分のコンディションを、元の位置、あるいはそれ以上の位置にメンテナンスしてくれる場所。誰の目も気にせず、ただ自分の身体や肌と対話して、呼吸を整えるためのシェルターのような空間を求めている。だからこそ、必要なのは派手な装飾ではなく、静けさであり、清潔感であり、自分を受け入れてくれる安心感なのだと思う。
だから、個人の小さなサロンを開業するなら、無理をして大金をつぎ込んだ豪華な内装にする必要はない。身の丈に合わない無理な投資をして、そのぶんを回収するために焦って客を詰め込むようなことをすれば、空間の空気はすぐに濁ってしまう。それよりも、静かで、落ち着けて、「ここに来ると自分の土台が整う」と実感できるような、誠実な空間設計のほうがずっと大事になる。選ぶ家具の手触りや、照明の柔らかさ、部屋に流れるかすかな香りといった、五感にそっと働きかけるようなディテールにこだわる方が、現代の疲れた女性たちの心には深く染み渡る。
派手な演出はいらない。ただ、彼女たちが自分の気分を維持するための、頼れる隠れ家のような場所を作ればいい。「ここに来れば、明日からの1ヶ月をまた穏やかに乗り切れる」と顧客に思ってもらえるなら、それはもう立派な高級サロンだ。大手のサロンが真似できないような、個人の顔が見える細やかな配慮と、静かに自分と向き合える時間そのものが、今の時代における最大の贅沢であり、高い価値を持つようになる。
素材の美しさに投資する人たち
この調査を見ていると、みんなメーキャップ(化粧)よりも、スキンケアやサロンでのケアメニューといった「土台作り」にお金を使っている。ファンデーションやアイシャドウで上から綺麗に塗り隠すことよりも、肌そのもののキメを整えたり、水分量を上げたりすることに関心が向いている。これは、コロナ禍でマスク生活を経験し、自分の「素」の状態と向き合う時間が増えたことも影響しているのだろう。一時的に取り繕った美しさよりも、根本的な部分が健やかであることのほうに、みんな価値を見出すようになっている。
ネイルやまつげサロンでも、ただ色を塗ったり派手に長くしたりするだけでなく、自爪や自まつげを育てるためのケアメニュー、あるいは仕上がりを長持ちさせるためのオプション(例えばワンコインのアイシャンプーとか)を、みんなためらわずに追加しているらしい。多少の手間やお金がかかっても、結果として自分の素材が傷みにくくなり、良い状態が長く続くのであれば、それは非常に費用対効果が高い投資だと彼女たちは知っている。1回の派手さよりも、日常のストレスを減らしてくれる「持ちの良さ」や「健やかさ」のほうが、圧倒的にタイパもコスパも良いのだ。
服はいくらでも着替えられるし、気に入らなければ捨てて買い直すこともできる。けれど、自分の肌や爪や毛髪は、24時間ずっと自分と共にあるものだ。朝起きて鏡を見たとき、ふと自分の手元が目に入ったとき、そこが整っているかどうかで、その日一日の気分の良さは驚くほど変わってしまう。他人に誇示するためのブランド品を買ってクローゼットに眠らせておくより、自分が24時間ずっと心地よく過ごすための「素材の良さ」に投資する方が、外部の目を気にする生活よりも精神的なコスパがとても高い。
サロンをやるなら、「流行りのデザインができます」というアピールよりも、「あなたの土台をこれだけ丁寧に整えます」というアプローチのほうが、今のシビアで賢い消費者には確実に刺さると思う。技術の安売り競争に巻き込まれないためにも、「ケア」や「持続性」をメニューの軸に据えることは、個人サロンが長く生き残るためのとても現実的な戦略になるはずだ。
最初の一歩は、ちょうどいい「ハコ」を探すことから
こういう、現代のちょっと不器用で、でも自分の軸をちゃんと持っている女性たちが通いたくなるようなサロンを、自分の手で作ってみるのはなかなか面白い試みだと思う。
大富豪の顧客を相手にする必要はない。ユニクロの服を着て、日々を真面目に生きている身近な誰かが、「ここに来ると救われる」と思ってくれるような場所を、ポツリと作ればいい。
自分の城を持つとか、誰かの隠れ家を作るとか、そういう大それた話をはじめにするとき、一番現実的で、一番面倒くさいのが「ハコ」選びだ。どんなに理想のコンセプトがあっても、コンクリートの四角い空間がなければ何も始まらない。
私がやっている不動産ポータルサイトでは、事業用の物件を専門に扱っている。最近は特に、個人がひっそりと始めるようなサロン系の物件を熱心に集めている。
「表通りに面した、ガラス張りの立派な路面店」みたいなものは、ここにはあまりない。家賃も高いし、そもそもメリハリ消費の彼女たちが求めているのは、そういう賑やかな場所ではないからだ。
それよりも、雑居ビルの3階の、ドアを開けたら外の喧騒が嘘みたいに消える一室とか。静かな路地裏にあって、知っている人だけが迷わずに辿り着けるような場所。そんな、誰かの「気分の維持」をそっと支えるのにちょうどいいサイズのハコを、私たちは探して、並べている。
何も決まっていなくても、ただ物件の間取り図を眺めているだけで、「ここにベッドを置いて、あそこに小さな植物を飾ろうか」なんていう妄想が、ぽつぽつと湧いてきたりする。それはそれで、なかなか静かで豊かな時間だ。
もし、これから自分の手で誰かの土台を整える場所を作ってみようと思ったら、気が向いたときにでも、うちのサイトをふらりと覗いてみてほしい。