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技術だけでは生き残れない?開業前に知っておくべき「店販比率」を上げる科学的アプローチ

結局、美容師の経営は「技術」だけでなんとかなるものなんだろうか

美容室を開業しようとしている人と話をすると、たいてい「カットの技術を磨きたい」とか「最高のカラー剤を導入したい」といった話になる。もちろんそれは大事なことだし、職人として正しい姿勢だとは思う。

でも、実際に店を構えて、毎月の家賃や光熱費を払って、スタッフの生活を守っていくという現実を考えると、技術だけではどうにもならない部分が出てくる。客単価という数字の壁だ。

一人の人間が1日にカットできる人数には限界がある。だからこそ、多くのオーナーは「店販(シャンプーなどの物販)」に活路を見出そうとする。けれど、これがなかなか上手くいかない。スタッフは「押し売りはしたくない」と言い、客は「ネットの口コミでいいのを探すからいいよ」と帰ってしまう。そんな光景をよく見かける。

「いいシャンプー」は、人によって「悪いシャンプー」に変わる

なぜ店販が上手くいかないのか。それは、多くの提案が「美容師の主観」か「ネットの曖昧な評判」に基づいているからかもしれない。

ここに、興味深い研究データがある。20代の男性50人を対象に、4種類のサロン専売シャンプーの使用感を調べた論文だ。これを見ると、シャンプーの良し悪しというのは、製品そのものの質以上に「使う人の髪質との相性」で残酷なほどに評価が分かれることがわかる。

例えば、洗浄力が強くて刺激が少ないタイプのシャンプーがある。普通に考えれば「パサつきそう」なものだけれど、実験では「くせ毛」の人ほど、それを使った時に「乾燥していない(ポジティブ)」と感じるという結果が出ている。一方で「直毛」の人が同じものを使うと、やはり乾燥が気になると評価が下がる。

また、「剛毛」の人には手触りが悪いと感じられるものが、「軟毛」の人には最高の指通りだと感じられたりもする。

つまり、世の中に絶対的な「正解のシャンプー」なんて存在しない。あるのは「その人の髪質にとっての正解」だけなんだ。

根拠(エビデンス)が、接客から「迷い」を消してくれる

開業して店を回していくとき、一番怖いのは「提案の属人化」だ。センスのあるスタッフは売れるけれど、そうでないスタッフは全く売れない。これでは経営が安定しない。

でも、この論文が示しているような「髪質(剛毛・軟毛、直毛・くせ毛)×製品特性」というロジックをカウンセリングの仕組みに組み込んでしまったらどうだろう。 「このシャンプーはいいですよ」と感覚で勧めるのではなく、「あなたの髪質は〇〇で、この製品の特性は××だから、データ上も相性がいいはずだ」と説明する。

これなら、押し売りが苦手なスタッフでも、自信を持って「専門家としての助言」ができる。客にとっても、ネットの不特定多数の口コミより、目の前のプロが提示する科学的な根拠のほうが、ずっと納得感があるはずだ。センスに頼らない仕組みを作ることが、長く店を続けるコツなんだと思う。

「場所」についても、同じことが言えるのかもしれない

シャンプーと髪質に相性があるように、これからあなたが作ろうとしている「店」と「場所」にも、きっと相性がある。

どんなに素晴らしい技術を持っていても、その技術を求めている人がいない場所で店を開いてしまえば、経営は苦しくなる。反対に、ターゲットとなる客の層と、選んだ場所の空気感がぴたりと一致すれば、店は自然と街に馴染んでいくはずだ。

私が働いている不動産会社では、いわゆる「住まい」としての物件は扱っていない。私たちが提供しているのは、誰かが「働く場所」であり、誰かを「おもてなしする場所」だ。

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参考文献:

高津洋貴, 丸山友希夫, 興梠靖幸, 「髪質の違いにおけるサロンシャンプーの使用感に関する研究」, 交通科学, Vol. 53, No. 1, pp. 73-82, 2022.